和歌山地裁田辺支部2026年6月4日判決の事案である。
報道で、判決が、防犯カメラ映像の一部の作画・差替疑惑に言及しているとあったので、是非とも読みたいと思っていたが(弁護人は未だ不明)、裁判所HPに掲載されていたので、読むことが出来た。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-96261.pdf
【1】
公訴事実は2つあり、うち道交法違反の方は、反則金納付通告及び所定の期間の経過が訴訟条件となるところ、反則金納付通告をするために必要な書面が適正に作成されていなかった疑いがあるとして、公訴棄却されている。
これはこれで興味深い展開であり、判旨を追うと、反則金納付通告を行ったと証言した警察官とは別の警察官が実際には応対して、手続を途中にしたまま事件被告人の帰宅を認めた後、上記証言をしている警察官が事後的に、「必要な書面」を作成したのでは無いかという疑義が呈されている。
裁判所の認定事実を前提とすれば、事後的に書面をでっち上げた警察官が、面前で作成したと故意に偽証をしていることになり(不在の場ででっち上げたことを忘れていました、は、流石に通らないだろう)、今後の捜査対応が見物である(但し、地検田辺支部は本判決に対し控訴しているようである)。
【2】
さて、件名の方は、公務執行妨害案件である。
事件被告人は、警察官から掴まれたので身をよじったら警察官が転倒しただけだと主張し、警察官側は、投げ飛ばされたと主張している。
結論を先に言えば、裁判所は、そもそも有形力を行使する必要など無かったのだから、警察官の掴んだ行為は適法な職務行為では無いとした上で、更に、投げ飛ばし事実を否定し、身をよじる程度の行為は同罪の暴行にも当たらないとして、無罪判決を導いている。
で、肝心の防犯カメラ映像のフレーム差替疑惑であるが、警察官側は、投げ飛ばされる前段階で、事件被告人の右手が同警察官の身体の左脇下に差し入れられたと主張していた。
これに関し裁判所は、事件被告人の当時の服装(青のジャンパーに深緑の長袖シャツ)と見誤らせる可能性のある「紺色の縦長の影のようなもの」が突然、防犯カメラ映像の、警察官の背中付近に現れたことを指摘し、「単色で立体感が感じられないことも考慮すると、極めて不自然」、「被告人の右腕と見誤るように新たに書き足したようにも見える」「裁判所をして事実誤認を惹起させる意図をもって、・・紺色で塗りつぶし、真実とは別の箇所に被告人の右手や右腕があったと見えるように作画がなされ、この作画が加えられた後の欺瞞画像数枚と・・オリジナルのフレーム画像とが差し替えられた、との深刻な疑念」があると判示した。
判決文だけを追えば、いきなり、警察官側の証言に沿うかの「紺色の縦長の影のようなもの」が突然、現れ、それが単色・立体感のないもので不自然で、作画・差替疑惑を持つのも無理は無いというところであろう。
【3】
尤も、かの「バイナリデータ事件」(https://www.kanaoka-law.com/archives/1433)に比べると、防犯カメラ映像データのフレーム編集、差替という科学技術(と言うほどのものでもないだろうが)が用いられている疑惑に対し、展開されている議論が全く科学技術的で無い、ということは指摘せざるを得ない。
そもそも、防犯カメラ映像データ全てが弁護人に開示されたのが、尋問入りした後のようであり(判決13頁、但しそれが、公務執行妨害事件の自称被害者警察官尋問の前後どちらであったかは判決文からは読み取れない)、その「紺色の縦長の影のようなもの」問題が、画像編集痕跡という観点から弁護活動の対象となったのか自体が不分明である。
判決中では辛うじて、上記開示データの最終更新時間が午前未明であり、少なくとも(警察官側が主張した収集経過である)日中に設置者からコピーを貰ってきたような場合とは整合しない趣旨が指摘されているが、それだけで直ちに画像編集まで繋げるには飛躍がある。
ひょっとすると控訴審で、この点についての科学技術的な検討も尽くされるのかも知れないが(というより控訴した検察庁は、それなしに覆せるとは思っていないだろう)、「裁判所をして事実誤認を惹起させる意図」「欺瞞画像」と踏み込んだ割には、判文中に現れる科学技術的な情報が乏しいと感じるところである。
【4】
もし裁判所の推測したとおりであれば、公務執行妨害事件の方は、現代における証拠捏造事例を冤罪の歴史に新たに加えるものであり、要注目である。
(弁護士 金岡)

















