またまた、在宅被疑者が取り調べに弁護人を同席させる権利を巡り、逮捕事案となるも勾留請求が却下されるという出来事が発生した。(幸いにして私の担当案件ではなく、)今度は大阪方面から聞き知った事例である。
なお、関連する本欄の過去の記事としては、次のものを参照して頂くと良い。

在宅被疑者が取り調べに弁護人を同席させる権利~特別編(前編)

(在宅)被疑者が取り調べに弁護人を同席させる権利~特別編・第2弾

決定によると、概要、以下の通りである。

被疑者については、平成30年4月に一旦、実効的な罪証隠滅の余地に乏しく、逃亡のおそれも高くなく、身体拘束の不利益が相応に大きいとして、勾留請求が却下された。その際、被疑者は今後の出頭を約束していた。
その後、4度に亘り出頭の上で取り調べを受け、黙秘権を行使していたが、弁護人の主張によれば、同6月、黙秘権侵害があった。そこで、黙秘権行使の意思確認の限度で弁護人同席を条件に取調べに応じると表明して、出頭要請に応じなかった。
すると、同9月、逮捕され、10日の勾留請求がされたというものである。

決定は、「被疑者の取調べに弁護人の立会権はないとの見解に立つ捜査機関からすれば」上記経過による出頭拒否を出頭拒否の意思の表れと捉え罪証隠滅等のおそれを高めるものと「考えるのもやむを得ない面がないではない」が、上記経過によれば出頭要請に応じなかったことには「不誠実なものとまではいえず、被疑者なりの理由があることになる」とし、今回勾留質問時にも改めて出頭意思が確認されているので結局、勾留すべき事情変更はなかったというものである(大阪地裁平成30年9月8日決定、浅香竜太裁判長ら)。

捜査機関の思い込みも分からなくはないが客観的な勾留要件が具備されていないという指摘は、取りようによっては思い込みでやっちゃ駄目だよという警鐘であり、皮肉めいて気が利いている。無論、一方的な見解を所与の前提に、客観的には存在しない勾留要件を誤認することは、過失による違法な身体拘束と評価できる。

裁判所には、すぱっと、立会権について踏み込んで貰いたいところだが・・そこまでしなくても解決できてしまうなら踏み込まないというのも、まあお約束の範疇か。なお、逮捕状を許可した裁判官が逮捕要件が具備されていると判断したのはどうしてなのだろうか?「被疑者の取調べに弁護人の立会権はないとの見解に立つ」裁判官だったのだろうか?任意捜査に関し、そのような誤った考えに立つ裁判官がいないと善意に解釈するなら、捜査機関の言いなりになる類の裁判官だったのだろうか?どちらにしても、碌な方ではあるまい。

ともあれ、今時の捜査弁護は、このように、労を惜しまず場面場面で誠実かつ原則通りに対応していくことが基本であり、弁護人の姿勢がそのようである限り、捜査機関の逸脱行動を疎明することはものにできる。当初勾留を却下させるという凱歌をあげておしまいではなく、そこからが本番だと言うことが、更に浸透すると良いと思う。

(弁護士 金岡)