裁判所や検察庁からの記録謄写は基本的に業者に依頼する。
閲覧に行き必要部分少々を自力で謄写、ということも全く否定するものではないが、依頼されている事件の性質上、大原則は「まるごと謄写して依頼者と共有する」ことになるので、業者に依頼しなければ立ちゆかないのが実際である。

さて、COVID-19の絡みで、各地の弁護士会の謄写業者から謄写業務の停止のお知らせが舞い込んでいる。とある北陸地方からも、「5月末まで業務停止」との連絡を受けたが・・・これでは全く仕事にならない。
僅かな分量の場合や、少々経緯のある経過を辿った場合には、検察庁からファクス送付等で事実上、交付を得られる場合もあるが、大量であったりすると、そのような交渉もなかなか難航する。
「謄写が出来ないので訴訟準備が出来ません」と言わざるを得ない状況である。
各地裁判所も、よほど急ぐべき事情のある事案を除くと大部分の事件を停止していること(名古屋地裁の民事部など、電話対応すら出来ないとのことである)から(このことは以前にも批判したが、お金の回収一つとっても、離婚一つとっても、当事者には切実な問題であり、大部分の事件が「不要不急」扱いというのはどうにも納得のいかない遣り口である)、いきなり大事に至るわけではないが、・・上記北陸地方の事案(保釈中の刑事事件)で言えば、5月中下旬に事件が「動く」進行の申し合わせをしていることもあり、途方に暮れる。

官邸主導なのか、最高裁主導なのか、なんなのか、知るよしもないが、裁判所が前記の通り動き、その結果、弁護士会も追随しているのだろうか。
弁護士個々人、また、利用者である裁判当事者の意見を聞くこともなく、号令一下、大部分の事件を停止させた今回の遣り口は、もう少し注目されて然るべきであるし(「アベノマスク」には比肩しうべくもないのかも知れないが、全く報道に上がらない)、少なくとも、落ち着き次第、検証されなければならないだろう。
「裁判を受ける権利よりも、組織防衛や、世間からの批判を避けることを優先させている」と映るのは、穿ちすぎだろうか。

(弁護士 金岡)