例の手錠腰縄の解錠時期問題である。

名古屋地裁刑事5部、西脇真由子裁判官の単独事件で、被告人の腰縄手錠姿を傍聴人に晒さないよう解錠することを申し入れたが拒絶された。
これは、その顛末報告である。

結論を急げば、弁護人が被告人のために垂れ幕を掲げて解錠時だけ傍聴席から遮ることをすら拒絶するという残念ぶりであった。最終的には忌避申立にまで至っているが、結果だけ見れば、「残念な裁判官図鑑」を作れば収録必至であり、やむを得ない。
他方で、その過程には一応評価すべきところもあり、ひょっとすると組織の圧力に負けた「だけ」なのかもしれない。その点は、一応、含みを持たせておきたい。

当初、西脇裁判官の消極理由は、「①事案の内容性質、②法廷などの裁判所庁舎内の設備の状況、③護送職員の体制、④期日自体連続して入っているところ、⑤「この1件だけでやれるじゃないかと弁護人は仰るのだろうが・・」、の5点であった(このように丁寧に理由説明を行う裁判官というだけで、現状、評価点が入る)。
これに対し、「事案の性質に照らし、戒具に拘束された被告人を傍聴人の面前に晒し辱めることの適否が左右されることは有り得ない」(①への反論)等と指摘し、更に、④のように言うなら、予定された審理を半分に止めて前後事件との間隙を確保すれば良い、つまり、被告人を晒し者にしないよう工夫を尽くそうと議論を持ちかけた。

そうすると、西脇裁判官の消極理由は、結局のところ、「かかる取扱を原則化するということを考えた時に、庁舎内の設備の状況とか護送職員の体制を考えると困難、一般化するのは難しい」というところに落ち着いた(前記で言う、②③⑤に収斂したということであり、流石にまずい理由を引いたところも、まあ、評価しても良いのかも知れないし、ともあれ真摯に再考した点は、偉い、のだろう)。

しかし、「庁舎内の設備の状況とか護送職員の体制」というが、浜松支部や半田支部といった他庁でできていることである。名古屋地裁本庁だけ、いかなる工夫も受け付けぬ不可能さがあるというのは、無理のある論理では無いか。
というよりも、遮蔽板(これは例えば、着替えに用いる移動式カーテンの類で良く、場所も取らず、移動も簡単なものが多数、市販されている)を法廷に常設しさえすればいとも簡単に運用できる措置なのであるから(名古屋地裁の刑事法廷は多く数えても20に満たないはずである)、それすら不可能だというのは、流石に戯言と言わなければならない(一つ1~2万円程度で買えるから、うちの事務所で名古屋地裁分を寄贈することも可能である)。
証人保護のためには懸命に知恵を絞って遮蔽する裁判所が、被告人の人権に対しては意図も容易く「難しい」という、この落差。受け止める方では、被告人を人間扱いしていないのでは無いか、と感じさせられるだろう。

西脇裁判官の言は、単に「難しい」というのではなく、「一般化するのは難しい」であったことにも、注意を要する。
何百人もの被告人が同様の措置を求めたら対応しきれない、と言いたいのだろう。
しかし、第一に、常備の移動式カーテンであれば書記官一人で動かせる。なにも難しくない。
第二に、よしんば対応しきれなくなるとして、だからといって目の前の人権を見殺しにして良いのか、という問題がある。
第三に、対応しきれなくなるとすれば、それは、それだけ多くの被告人が傷つき、救済を求めている証である。「増える」と予想するなら、「人権侵害の横行に是非とも対応しなければならない」に舵を切るべきだろう。「増える」と予想しながら、組織の手間を省く方に舵を切るというのは、理解しがたい。御自身の感性故か、上に諮ったところダメ出しされたのか・・「一般化」に逃げ込んだところからすると後者なのかも知れない。

ともかくも、このような応酬を経ても、西脇裁判官を翻意させることは出来なかった。
そこで、やむを得ず自衛の措置を考えた。
つまり、(流石に移動式カーテンまでは調達する時間が無かったので、)弁護人が垂れ幕を掲げて、その中で解錠して貰おうというものである。バスタオル一枚、横に広げればなんとかなる(後半で述べるとおり、押送職員は、裁判所の要望通りに歩みを緩めたり立ち止まったり、きちんと職責を果たされていた)のである。

このことを事前に上申したところ、なんと、裁判所の判断として禁止する、という事前通告がされた。そこで、垂れ幕を広げれば禁止命令を受ける、ということを理解した上で、法廷に臨まざるを得なくなった。(「後半」に続く)

(弁護士 金岡)